Simon Greenが指摘するのは、AIが下げたのは「作る」コストだけで「持つ」コストではないという非対称だ。コード・テスト・規則・文書・組織の仕掛けはほぼ無料で作れるようになったが、それらを所有し続けるコストは下がっていない。エージェントを大量に走らせる開発者・チームにとっては、生産量(出力されたコミットや規則の数)を成果の代わりにすると、維持すべき資産だけが積み上がる。エージェント運用が広がるなか、本当の問いは「どれだけ作れるか」ではなく「作ったものを誰が吸収し、所有し続けられるか」へ移る。

何が起きたか

Simon Green(sjg.io)が2026年9月3日に公開したエッセイ「AI Is Making Us Build Too Much」は、AIによる高速生産が過剰設計を招くと論じる。著者はSteve Yegge本人ではなく、Greenである。Yeggeの『Fences, not Sandboxes』を読んで考えたことが出発点だと本人が書いている。

中心の主張

  • 生産コストと所有コストの非対称:「AI has made code, tests, policy, documentation, and organisational machinery almost free to produce. It has not made any of them free to own.」「Cheap to create. Expensive to own.」
  • 経済的抑制の消失:AIは、追加した各層が見合うかを確かめさせていた従来の経済的圧力の多くを取り除いた。
  • 稼働率への引力:「Capacity seeks utilisation.」大規模なエージェント群を立ち上げると、遊ばせずに稼働させ続けたくなる。
  • 吸収の遅れ:「Production accelerated. Absorption did not.」

事例:Yeggeの Wheelhouse

Greenは、YeggeがゲームWyvern(約30年開発)のために使うエージェント運用システム Wheelhouse を題材にする。Greenの記述によれば次のとおり。

  • Wheelhouse は約60万行のコードとテスト(主にBash)に成長した。ゲームコンテンツを除く Wyvern 本体はその約2倍にとどまる。
  • 「工場」が製品より速く育ち、1対1の比率に向かっていると評される。
  • 50〜60体のエージェント、18の役職、1日平均270コミット、450の「法的成果物」、100以上の「fences」(ポリシー機構)を持つとされる。

規則を足す一つひとつの判断は合理的でも、全体は不条理になりうる、という構図だ。エージェントが拙い判断をするとチームが規則を書き足し、それが積み重なる。

注意点

Wheelhouse の数値はすべてGreenの記事内の記述に基づく。Yegge自身の原典との突合は行っていない。

なぜ重要か

エージェント運用の成果を生産量で測ると、維持コストを負う資産が増えるだけで価値が増えたとは限らない。確認できる範囲では、Greenの論旨は「作れる量」から「吸収・所有できる量」へ評価の軸を移すものだ。