Metaを離れたYann LeCun氏が10.3億ドルを調達して非生成型の「世界モデル」に賭け、Fei-Fei Li氏のWorld Labsは3D世界を生成する世界モデル製品「Marble」を2025年11月にすでに製品化し、Runwayも2026年8月末に生成インターフェース「Solaris」を投入した。生成一辺倒だったAI開発の競争軸に、環境を予測し行動を計画する「世界モデル」という新しい方向が同時多発で立ち上がっている——ロボティクスやシミュレーションを扱う開発者にとっては、高価な実世界試行や作り込み型3Dモデリングに頼らず、予測・生成によって安く環境を用意できる選択肢が現実の製品として使える段階に来たことを意味する。そしてこれは、単体モデルの生成品質を競う現在のフロンティアモデル競争とは別の軸——「予測・計画」という軸で複数の独立した資本と研究者が同時に賭け始めたことを示している。

何が起きたか

ニュースレターTuring Post(著者Ksenia Se)が「What Comes Next for AI? Our Bet Is World Models」という論考を公開し、世界モデルが環境表現・結果予測・シミュレーション・計画・行動を統合する次世代AIの中核になり得ると論じた。この論考自体は独立した解釈的な論考であり、以下に挙げる各社・各研究者本人の発言をそのまま引用したものではない。

その論考が名指しする動きのうち、一次ソースで裏付けが取れたのは次の3件である。

  • Yann LeCun氏/AMI Labs: LeCun氏は2025年11月にMetaを離れ、Advanced Machine Intelligence Labs(AMI Labs)を設立。2026年3月10日に10.3億ドルのシード資金調達を発表した。
  • Fei-Fei Li氏/World Labs: 「空間知能(spatial intelligence)」を掲げるWorld Labsが、2025年11月12日に世界モデル製品「Marble」を公開した。
  • Runway: 2026年8月31日、「Interface World Models」の第一弾モデル「Solaris」を発表した。

なお元クラスタが挙げるDemis Hassabis氏(Google DeepMind CEO)の発言「Building world models has always been the plan for GDM to get to AGI」は、本人のXポストへの直接アクセスができず(402 Payment Required)、the-decoder・Axios・Fast Companyなど複数の独立した二次報道が同一文言で一致して引用しているに留まる。内容自体の信頼度は中程度だが、一次ソースで確認できていないため本記事では「本人が発言したと複数メディアが報じている」という間接的な事実として扱う。

仕組み・詳細

3社・3者の「世界モデル」は、同じ語を掲げながら技術的な中身はかなり異なる。

  • AMI Labs(LeCun): 公式サイトは「真の知能は言語からではなく世界から始まる」と掲げ、現実世界のセンサーデータを表現空間で予測し、行動の結果を事前に評価できる設計思想を明記する。画像や動画そのものを生成するのではなく、表現空間上で結果を予測する非生成的なアプローチ(JEPA路線)である。
  • World Labs(Fei-Fei Li): Marbleは「テキスト・画像・動画・大まかな3Dレイアウトから3D世界を作成できる」("Marble can create 3D worlds from text, images, video, or coarse 3D layouts")とし、3D世界を人間とAIエージェントの双方が相互作用できる形で再構成・生成・シミュレーションすることを掲げる、生成型のアプローチである。
  • Runway: Solarisは「画像そのものがアプリケーションとなる」リアルタイム生成インターフェースを掲げる。世界の物理的な予測というより、UI・インタラクションをその場で生成する応用に焦点を当てている。

つまり「世界モデル」という同じ看板の下で、(1) 非生成・表現空間予測(AMI Labs)、(2) 生成的3Dコンテンツ(World Labs)、(3) リアルタイム生成インターフェース(Runway)という、技術的にはかなり異質な3つの賭けが並走している。

数字で見る

  • 2025年11月: LeCun氏がMetaを離れAMI Labsを設立
  • 2025年11月12日: World LabsがMarbleを公開
  • 2026年3月10日: AMI Labsが10.3億ドルのシード資金調達を発表
  • 2026年8月31日: RunwayがInterface World Models第一弾「Solaris」を発表

背景

Turing Postの論考は、生成AI(LLM)が言語の次のトークンを予測することに主眼を置いてきたのに対し、世界モデルは「環境の何らかの表象を作り、次に何が起きるかを予測する何らかの能力を持ち、何をすべきかを選択する何らかの方法を持つ」システムだと定義する。生成に閉じず、予測・計画・行動までを射程に入れる点が対比軸として論じられている。

この論考が公開されたタイミングは、Runwayが「Interface World Models」を発表した直後であり、時期的に近接している。

なぜ重要か

ロボティクスやシミュレーションを扱う開発者にとって、非生成的な予測(AMI Labsが掲げるJEPA路線)は、高価な実世界での試行錯誤や作り込み型のフォトリアリスティックなシミュレーション環境なしに、表現空間上で行動の結果を評価できる可能性を示す。また、Marbleのようにテキストや画像から3D世界を直接生成できる製品は、ゲーム・VFX・ロボット訓練環境向けの3Dコンテンツ制作コストを下げる、今すぐ使える手段としてすでに存在する。

より大きな流れとして見ると、AMI Labsの10.3億ドル、World Labsの製品化、Runwayの新方式という、独立した複数の資本・研究者が「生成」とは異なる「予測・計画」という軸に同時多発的に投資し始めたことは、現在のフロンティアモデル競争(単体モデルの生成品質を競う軸)とは別の競争軸が並行して立ち上がりつつあることを示している。

ただし、本当に問うべきはこの「収斂」というフレーミングそのものだ。AMI Labsの非生成的表現学習、World Labsの生成的3Dコンテンツ、Runwayのリアルタイム生成インターフェースは、技術的な設計思想がかなり異なる。これらが実際に一つのパラダイムへ収斂しつつあるのか、それとも技術的に相当異なる複数の賭けが「世界モデル」という同じ言葉を借りて語られているだけなのかは、現時点の確認済み事実だけからは判別できない。