Metaが内部で検討していたのは、AIエージェントへの移行を前提に一部チームの人員を最大60%削減するという踏み込んだシナリオだった。2026年1月、Zuckerberg氏のハワイ自宅での幹部リトリートで策定された内部計画「Project OT(Organization Transformation)」は、5月と11月の2波に分けたレイオフを準備していたが、Zuckerberg氏は第1波発表のわずか数時間前——5月19日の夜——に第2波の中止を決めた。決め手として報じられているのは、AI支援によるコード変更が前年比220%増加した一方で、実際にユーザーに届いた機能改善はわずか36%増にとどまったという社内データだ。AIによる人員代替を検討する経営層にとって、「コードを書く量が増えること」と「価値を届ける量が増えること」は同義ではないという、具体的な反証データがここにある。エージェント開発が「期待したようには加速しない」とき、人員という不可逆な意思決定にどこまで先んじて賭けてよいのか——という問いに、AI活用の最前線を走っていたはずのMeta自身がぶつかった格好だ。

何が起きたか

Project OTは、2026年1月の幹部リトリートで策定されたシナリオプランニング演習で、一部チームの規模を「最大60%」削減する案を検討していた。Meta広報はこの数字について、全社的な60%削減計画を意図していたわけではなく、あくまで一部チーム限定のシナリオの一つであり、「シナリオの全てを実行に移すことはなかった」と説明している。

計画は当初、2度のレイオフ——第1波(5月)・第2波(11月)——という2段構えで進められていた。しかしZuckerberg氏は、第1波の発表を数時間後に控えた5月19日の夜、方針を転換して第2波の計画を中止した。翌5月20日、10%の人員削減が第1波として実施されている。

なお、当初の一部報道は「第1波実施の直後に第2波を撤回した」という順序で伝えていたが、これは時系列が逆である。正しくは、第2波の撤回が先(5月19日夜)、第1波の実施が後(5月20日)だった。

数字で見る

  • 最大60%: シナリオプランニングで検討された、一部チーム限定の人員削減幅(全社計画ではないとMeta広報が説明)
  • 2波: 当初計画されていたレイオフの回数(5月・11月)
  • 10%: 実際に2026年5月20日に実施された人員削減の規模
  • 220%増 vs 36%増: AI支援によるコード変更量の前年比増加率と、実際にユーザーに届いた機能改善の増加率
  • 74%→55%: 労働追跡ソフトへの抗議が相次ぐ中で低下したとされる社内感情スコア

背景

第2波撤回の理由について、単一の決定的なトリガーが特定されているわけではないが、複数の具体的な寄与要因が報じられている。中心にあるのは上記の生産性ギャップ——AI支援によるコード変更量は前年比220%増加したものの、それが実際のユーザー向け機能改善にはわずか36%増としか結びついていなかったという社内データだ。加えて、投資家からのAI支出への批判や、従業員の反発(社内感情スコアの低下、労働追跡ソフトへの抗議)も背景として挙げられている。

この文脈と符合するのが、Zuckerberg氏自身が2026年7月2日の社内タウンホールで語った発言だ。氏は過去4か月間のAIエージェント開発について「期待したようには加速していない(hasn't really accelerated in the way that we expected)」と認めた。一方で、今後3〜6か月で状況が改善し、より多くの利益を示し始めると予想するとも述べている。

なぜ重要か

AIエージェントによる人員代替を検討している経営層にとって、Metaの事例は「コード生成量の増加」と「出荷された価値の増加」が別物であることを示す、実測データに基づく具体例になる。AIがコードを書く速度そのものは確かに上がっても、それをレビュー・統合・検証し実際にユーザーに届けるまでの工程がボトルネックとして残るなら、生産性の実感はコード生成量の伸びほどには上がらない。人員計画のような不可逆な意思決定を、エージェント開発の進捗予測だけを根拠に先回りして進めることのリスクを、Meta自身が身をもって示した形だ。