何が起きたか
OpenAIでポストトレーニング責任者を務めた研究者が、自ら共同創業したスタートアップを解雇され、古巣を経由して結局Googleに舞い戻った——Barret Zoph氏の直近1年のキャリアは、単発の転職ニュースでは片づけられない。本人が2026年8月27日にXで明らかにしたのは「Thinking Machines Labは、私が退社するつもりだと知った直後に私を解雇した。それだけだ」という一文だった。これは、当初広く伝えられていた「CEOのミラ・ムラティ氏との対立を理由に自ら会社を去った」という筋書きとは順序が逆であることを、本人が名指しで訂正したものだ。
Google広報はTechCrunchの取材に対し「BarretがGoogleに戻り、RLとポストトレーニングの専門知識をGeminiにもたらしてくれることを楽しみにしている」とオンレコで回答している。Zoph氏自身もX投稿で「Google DeepMindに加わる。RLとポストトレーニングに取り組む」と述べた。
実務者にとっての効き目は明確だ。ラボの技術的方向性を「誰が在籍しているか」から読もうとする採用担当者・投資家・提携判断者にとって、共同創業者という肩書きの耐用年数が数か月単位まで短くなっている現実を、この一件は具体的な日付つきで示している。肩書きや在籍情報を根拠に技術力・組織の安定性を判断する場合、その情報の鮮度をこれまで以上に疑う必要がある。
経緯——解雇とOpenAI復帰の実際の順序
Zoph氏の直近のキャリアは次の順序をたどる。
- OpenAIでポストトレーニング責任者を務めていた
- Thinking Machines Labの共同創業者兼CTOとして2025年に参画
- 2026年1月14日、退社の意向を伝えた直後にMurati CEOに解雇された(本人の反論に基づく経緯)
- OpenAIへ復帰
- 2026年6月、OpenAIを再び退社
- 2026年8月27日、Google DeepMindへの入社をX上で発表
Zoph氏は自身の個人サイトで「Thinking Machinesの共同創業者兼CTO」だった経歴を明記しており、直前までThinking Machinesに在籍していたこと自体は本人発信でも一致している。一方、解雇の理由についてMurati側が社内向けに「performance, conduct and trust issues」と説明したと報じられている点に対しては、Zoph氏本人がこれに異議を唱えている。
なぜ重要か
この一件が示す本質は、個人の栄枯盛衰そのものではなく、フロンティア研究者を巡る人材回転の速度だ。OpenAIでポストトレーニングを率いた人物が、新設ラボの共同創業者になり、解雇され、古巣に戻り、半年で再び去り、今度はGoogle DeepMindでRLとポストトレーニングを担当する——この5社越えの移動が1年足らずで起きている。
Googleにとっては、Gemini向けのRL・ポストトレーニング強化という具体的な投資領域を、内部育成ではなく他ラボからの復帰人材で埋めた点が、その技術的優先順位を映す一つのシグナルになる。Zoph氏は2016年ごろからGoogle Brainに在籍していた経歴を持ち、他ラボでの経験を経て古巣に戻る「里帰り」パターンの一例でもある。
なお、Googleがコード生成AI分野でAnthropicやOpenAIに後れを取っているという事実自体は複数の独立した報道で裏付けられているが、これを今回の採用の直接の動機として結び付ける一次証言は、本人の投稿にもGoogle広報のコメントにも見当たらない。両者が語るのはあくまで「Geminiに向けたRLとポストトレーニング」への従事であり、コード生成AIへの言及はない点は区別して扱う必要がある。