DeepSeekのV4.1-Flashは総552Bパラメータだが、1トークンあたりの活性はprefill時8B・decode時16Bにとどまる。Yandexの基盤モデルも総80Bに対し活性3Bだ。Alibabaは同じ時期に、Qwen4.5/Qwen5を5〜10兆パラメータ規模へ広げるロードマップを示した。モデルを選ぶ開発者にとって、推論の負荷を決めるのは総パラメータではなく活性パラメータになる。総数の大きさだけでは、速さやコストを読めない。2週間で3社が同じ設計思想を公式資料で示したことは、「総容量を伸ばしつつ活性を抑える」スパースMoEが、中ロの主要ラボ共通の路線であることを裏づける。本当の問いは、「何兆パラメータか」という見出しの数字が、実際に動かす計算量を何も語らなくなったとき、モデルの大きさをどの指標で比べるのか、である。

何が起きたか

  • Alibaba(2026-09-22): Apsara Conferenceに合わせた公式発表で、次世代モデル「Qwen 4」が訓練中だと明らかにした。続くQwen 4.5とQwen 5のシリーズは、最大で5〜10兆パラメータ規模まで拡大する計画だと述べている。
  • DeepSeek(2026-09-10): 新アーキテクチャファミリーの最初のモデルとして、マルチモーダル対応のV4.1-Flashを公開した。公式の変更履歴は、これをファミリーで最小のモデルと位置づけ、より高い能力の上限・高速な推論・高いスループット・より大きなモデルへの拡張を狙った設計だと説明している。同じ変更履歴によると、DeepSeekはユーザーの要望を受け、V4 ProのAPI提供を2026-09-14以降も続ける。課金体系は変えない。
  • Yandex(2026-09-21): 総80B・トークンあたり活性3BのMoE基盤モデル「AliceAI-Foundation-80B-A3B-Base」を、Apache 2.0でオープンソース公開した。Yandexはロシアの企業で、AliceAIは同社のモデル系列である。QwenやDeepSeekのような中国拠点のラボではない。

仕組み・詳細

DeepSeek-V4.1-Flashのモデルカードによる構成は次のとおり。

  • バックボーンは552Bパラメータ。
  • 40層のTransformerで、20層の因果エンコーダの後に20層のデコーダが続く。
  • 各MoE層は1個の共有エキスパートと384個のルーテッドエキスパートを持ち、トークンごとに6個のルーテッドエキスパートを活性化する。
  • 活性パラメータはprefill時に8B、decode時に16B。
  • コンテキストは最大100万トークンまで対応する。
  • ライセンスはMIT。

AliceAI-Foundation-80B-A3B-Baseは、モデルカードの技術仕様表によると48層で、最大262,144トークンのコンテキストを持つ。KDA層とゲート付きアテンション層を組み合わせたハイブリッド構成だ。

数字で見る

モデル 総パラメータ 活性パラメータ 総数に対する活性の比 ライセンス
DeepSeek-V4.1-Flash 552B 8B(prefill)/16B(decode) 約1.4〜2.9% MIT
AliceAI-Foundation-80B-A3B-Base 80B 3B 3.75% Apache 2.0
Qwen 4.5 / Qwen 5(計画) 5〜10兆 未公表 — 未公表

比率は上記の公式数値から算出した。Qwen4.5/5の活性パラメータは、今回の公式発表に含まれていない。「5〜10兆」は、総パラメータで見た計画上の規模である。

Yandexは自社発表で、同モデルがコーディングでNVIDIAのNemotron-3-Super-120B-Baseを活性パラメータの4分の1で上回り、オリンピック水準の数学問題の大半を解けると主張している。これはYandex自身の発表内容で、第三者のベンチマークによる独立検証ではない(根拠強度: 中)。

背景

世の中のAI状態として蓄積されてきたフロンティアモデル競争では、中国勢オープンウェイトの共通の設計傾向が、総容量を増やしつつ活性パラメータを抑えるスパースMoEだった。今回の3件は、その傾向がAlibabaの将来計画、DeepSeekの新アーキテクチャ、Yandexの小型基盤モデルという別々の層で同時に確認された事例にあたる。DeepSeekが「より大きなモデルへの拡張」を設計目標に掲げた点と、Alibabaが5〜10兆規模を掲げた点は、総容量の拡大が当面続く方向を示す。

なぜ重要か

  • モデルを選ぶ・運用する人へ: 同じ「数百B」でも、活性が8〜16Bのモデルと数十Bのモデルでは、トークンあたりの計算量が桁で違う。レイテンシやコストの試算は、総パラメータでなく活性パラメータとコンテキスト長から始める必要がある。
  • 比較の物差し: 総数が兆の単位に達しても、その数字は1トークンの処理で動く計算量を表さない。見出しの規模と実際の推論負荷が切り離された以上、比較は活性パラメータ・コンテキスト・ライセンス・独立ベンチマークの組で行う。
  • 地域の読み方: 公式発表は、中国の2社とロシアの1社が同時期に次世代モデルの方針を示したことを裏づける。ただしYandexを中国系ラボの動きとまとめて扱うことはできない。

未確認事項

Qwen3.8-Omni-FlashやQwen3.8-LiveTranslateのリリースについては、二次報道しか見つかっておらず、AlibabaやQwenの公式ページで確認できていない(未検証)。本記事では事実として扱わない。